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未来の人とクルマを心地良くつなげる『インテリアコンセプト』
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私は、主に自動車内装部品のCMF(色・素材・仕上げ)を作り上げるカラーデザイナーとして、視覚だけでなく触覚、嗅覚などの五感に訴える研究を行っています。
2035年をターゲットとして未来の自動車を描く中で、EV化や自動運転の普及に伴い、クルマのインテリアは現在よりも自由度が高まっていくのではないかと考えました。その中で、今回製作したインテリアコンセプトモデル「C2035」では、「Calm」をテーマに、人とクルマを心地良くつなげるインテリアとしての「Calm Technology」と、クルマと地球を心地良くつなげるものづくりとしての「Circular economy」を具現化することにしました。
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「C2035」の構想を形にしていく中で、私は全体の配色と素材づくりなどを担当しました。
特にこだわったのは、ミニマルやシンプルといったトレンドを考慮して全体の色調はシンプルに抑えつつ、地味な印象にならないよう素材のバリエーションを増やしたことです。たとえば、トリム部分には地元広島の名産である牡蠣の殻を混ぜた表皮を使用したり、パネルの部分はやわらかな質感の光透過スエード調表皮でリラックス感を表現し、人が触れる機会の多いステアリング周りには社内で触感評価をしたサラサラした表皮を使用しています。
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素材づくりで一番難しかったのは、スエード調の表皮で光を透過させることです。裏から光を当てた際に布の組織が見せたい表示の邪魔になってしまったり、布の染料によって透過しづらくなったりしてしまいます。これについては、たくさんの試作品をつくり、透過しやすい表皮になるように何度も調整を重ねることで、納得のいく仕上がりにすることができました。
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また、「Calm Technology」を表現する上でさらに快適な空間を演出するため、当社オリジナルのアロマを製作して「C2035」に搭載しました。アロマは瀬戸内レモンをベースとした2種類を製作し、一つはホッとする香りに、もう一つはミントを加えた爽やかな香りにしました。実は、ミントの香りには体感温度を4℃も下げる効果があると言われており、快適な空間づくりに貢献できると考えています。
2024年5月に開催された「人とくるまのテクノロジー展2024 YOKOHAMA」にて実際に「C2035」を展示した際には、広島らしさと最新技術を組み合わせたストーリーとして、当社の想いに共感いただくことができたと感じています。
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今後は、「C2035」に織り込んだそれぞれの技術を量産に結び付けるための開発を進めていくとともに、新たな価値創造に向けたアイデアの創出にも引き続き取り組んでいきたいと思います。
デザイナーが生み出したアイデアをモノにしていくためには、エンジニアの方々の力が必要不可欠です。そこで、エンジニアの方が作りたいものを形にするのに悩んだ時、「あなたになら信頼してお願いできる」と言ってもらえるようなデザイナーになっていきたいです。